欧米と中国の小売の現場から見えてくる「コロナドリブン」の時代
新型コロナウイルスCOVID-19が世界に与える影響はますます強くなり、弊メディアWFNに限らず、さまざまなメディアで連日報道が続いている。
» 参考:【中国アパレル】世界より一足早くコロナ後の世界が開かれ始めている
日本国内についての情報がもっとも豊富なこの状況下なので、今回は欧米と中国での状況をレポートしていきたい。
欧米諸国でも、新型コロナウイルスCOVID-19の問題に対応するため、CHANNEL 、LOUIS VUITTON、Canada Goose、Diorなどのファッションブランドは欧米を中心に店舗を一時閉店し、代わりに医療用マスクの生産を始め、一方で中国市場での経済復活に期待を寄せている。
これは、終わりの見えない欧米の状況からすると当然の流れといえる。
これをうけて、この流れを生み出している欧米の小売企業の具体的な状況や動向を見ていきたい。
本記事の内容
- 苦境が続く欧米の百貨店
- 世界中で期待が寄せられるネット販売の躍進
- 「コロナドリブン」の時代が始まっている
苦境が続く欧米の百貨店
欧米の百貨店は今、日本と同様に苦境に立たされている。例えば、163年の歴史を誇るアメリカのメイシーズ(Macy’s)もそのひとつだ。
2020年2月中旬から4月中旬にかけて、メイシーズ(Macy’s)の時価総額は60億USドルから18億USドルに下落し、3月末には企業の実力を判断すると言われているS&P ダウ・ジョーンズ・インデックスにおいて500指数のランクから外れ、現在は600指数ランクの一部となっている。
実際の店舗運営状況もとても辛い状況にある。3月18日、メイシーズ(Macy’s)は800店舗全てを一時閉店すると発表した。店舗の一時閉店でほとんどの収益が失われ、収益全体の30%も満たないEC事業だけでは企業の体力を維持することはできない。
そのため、可能な限り経営を継続していくため、メイシーズ(Macy’s)は十数万人の従業員に無給休暇を取得させるという苦渋の決断をとった。
イギリス大手の百貨店チェーンであるディベンハムズ(Debenhams)も、新型コロナウイルスCOVID-19のため倒産の危機に陥っている。242年の歴史を誇るこの百貨店は、イギリスに142店舗を展開しており、倒産すれば従業員約2万人に影響を及ぼすこととなる。
ただし、これは新型コロナウイルスCOVID-19の影響だけというわけではない。新型コロナウイルスCOVID-19のせいにするのは簡単だが、もともとビジネスモデルの終焉は近づいていた。
実は昨年2019年4月から、ディベンハムズ(Debenhams)は破産再生の申請を行っていた。2015年度から、ディベンハムズ(Debenhams)の業績は絶えず下落し、2018年度は更に4億915万ポンドの赤字に陥り、今回の新型コロナウイルスCOVID-19で更に悪化した(経営難に決定打を与えた)というのが実際のところだろう。
何にせよ、新型コロナウイルスCOVID-19をきっかけに、ディベンハムズ(Debenhams)はディベロッバーに五ヶ月分の家賃免除を書面要望し、また、サプライヤーには一ヶ月分支払い期限を遅らせたいと提案したと報道されている。
世界中で期待が寄せられるネット販売の躍進
このように、小売店舗はキャッシュフローの節約を試行錯誤する流れが続いているが、EC(ネット販売)の流れは違う。
新型コロナウイルスCOVID-19の問題が本格化して以降、人々は品物不足や感染拡大を心配し、オンライン上で生活用品、食品、医療衛生用品を購入する動きが加速している。アマゾン(amazon)は先週、新型コロナウイルスCOVID-19の影響でオンライン注文の需要が急増したため、7.5万人を新たに臨時採用し、急増に対応すると発表した。
これに先立ち、アマゾン(amazon)は10万人の倉庫管理員や宅配業者を募集し、注文センターや宅配サービスのネットワークに配置した。新たに採用する7.5万人分だけでも、人件費を3.5億USドル以上積み増しする形となる。
統計によると、アメリカの失業率は右肩上がりを続けており、10人に1人が失業していると推定されている。新型コロナウイルスCOVID-19はこのアメリカの高い失業率の要因のひとつであるといえる。
今回のアマゾン(amazon)の募集計画は失業者や収入を大幅に減らした人の救命の綱になるかもしれない。アマゾン(amazon)はネット上で、「リストラや退職されたさまざまな職種の社員が募集に参加することを歓迎する」との声明を発表した。
今回の消費者の行動習慣の変化は、EC(ネット販売)業界全体の業績を大幅に引き上げつつある。バンクオブアメリカの研究によると、EC(ネット販売)業界の3月の業績は前年同期比16%増となり、アマゾン(amazon)は今年全体で40億USドルの売り上げ増となる可能性がある。
そして、アメリカ以上に大きな変化を見せているのは中国だ。中国でのEC(ネット販売)業界の変化は、アメリカや日本の比ではない。アリババグループのT-mallは、この新型コロナウイルスCOVID-19の中でも圧倒的な存在感を見せた。
この2ヶ月間、T-mallでは1000万本以上の口紅が売れ、「婦人節(3月8日に女性を敬う日。近年は女王の日と呼ばれることが多い」の期間だけで、全体の売上高は前年同期比で2倍となっている。
一方、オンラインにそこまで力を入れてこなかったブランドにも変化が生まれている。アレキサンダーワン(Alexander Wang)、プラダ(Prada)、カルティエ(Cartier)、ジョルジオアルマーニ(Giorgio Armani)、ミュウミュウ(Miu Miu)、ブルガリ(Bvlgari)などのラグジュアリーブランドが相次いでT-mallに旗艦店を出店し、停滞している世界経済のダメージを中国での消費意欲の復活で和らげたいと考えている。
新型コロナウイルスCOVID-19の影響によって、EC(ネット販売)だけでなく、ライブストリーミングのシステムや投げ銭の仕組みなど、オンライン上のサービスの普及はますます加速していく。
「コロナドリブン」の時代が始まっている
「不幸中の幸い」なんて表現は生ぬるいのかもしれない。それでもこの時代にインターネットがあってよかった。
「アフターコロナ」なのか「ウィズコロナ」なのか。それはあくまで言葉の使い方ひとつだが、2020年が世界にとっての大きな転換期になっていることは間違いない。
オンライン上のサービスに限らず、各企業が自身にとって既定路線ではないことを始める必要がある。否が応でもコロナに突き動かされる「コロナドリブン」の時代が始まっている。
兒玉キミト
【中国アパレル】世界より一足早くコロナ後の世界が開かれ始めている
アパレル経済に限らず、世界の経済が今後復興に向かっていくためには、タイムマシーンで未来をのぞくような気持ちで中国の動向を観察しておくことが、今後にとって有益なことは間違いない。今回は世界規模のアパレルブランドに着目し、世界そして中国での状況をレポートしたい。
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