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中国アパレル企業I.Tグループのこれまでと、急がれるオンライン改革

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(画像出典元:I.Tグループ)

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I.Tの存在感の弱まりとそこからの脱却への試み

20年以上に渡って中華圏のセレクトショップの黎明期を支えてきた香港のファッショングループI.Tの存在感が、近年徐々に少なくなっている。

筆者が上海に移住した2008年には香港や中国大陸で圧倒的な存在感を見せていたI.Tグループ。その頃から、街を歩けばいたるところで彼らの店舗を見かけることができた。
今でも規模としては軽視できない存在ではあるし、事業の多角化も進んではいるが、そのころの圧倒的な存在感は今や見る影もない。

競合の少なかったマーケットに今やレベルの高い競合セレクトショップが大幅に増え、利益の確保源だったオリジナルブランドに対しても中国国内の競合ブランドがタケノコのように増えてきたことが大きな要因と言える。
それに加えて、実店舗の運営ノウハウを中華圏でいち早く積み重ねてきたことが大きな強みだったI.Tグループは、他社と比べオンラインやデジタルの開発に遅れをとったことも要因の一つと言える。ある種のイノベーションのジレンマだ。

2020年上半期の財務報告書によると、I.Tグループの総売上高は前期比32%ダウンの約27.4億香港ドル、粗利も40%ダウンの約14.9億香港ドルとなり、純損失は約3.4億香港ドルだった。その業績に呼応するように2020年12月に上場廃止となっている。

既存の事業路線ではジリ貧のI.Tグループだが、事業戦略を変更し、大きな方向転換を図っている。
それは、「EC市場のテコ入れ」だ。

元々アリババグループのECモールTmallの中に出店はしていたI.Tグループだが、近年独自ドメインのサイトを開発し、さらに、チャットコミュニケーションアプリWeChatのミニプログラム内にも独自ショップを開発し運営している。2021年の売上高は前年と比べ2倍以上に成長した。プロモーションイベントによっては訪問ユニークユーザー数が200万規模になることもあり、集客・売上ともに着実に成長を見せている。


※WeChatミニプログラム

このいい流れを継続し、I.Tグループは業績低迷から脱却できるのだろうか。

3つの強みとそのジレンマからの低迷

I.Tグループの名称は、いわゆる「情報技術(Information Technology)」の略と勘違いされることが多い。だが実際はそうではなく、「Income Team」の略であり、「稼ぐチーム」を意味している。

1988年から現在まで、I.Tグループは3つの大きな強みで事業を推進してきた。

一つ目の強みである潮牌ブランドの提案力

潮牌とは中国において、トレンド感のあるデザイナーズブランドやストリートブランドを指す。

I.Tグループは現在400以上のファッションブランドを扱っており、その中にはIzzue 、b+abなど10以上の自社ブランドが含まれている。2011年に買収した日本ブランドA Bathing Apeもここに含まれている。

I.Tグループ傘下は「I.T」と「i.t」で構成されている。「I.T」はJIL SANDER、Balenciaga、Maion Margielaなどのラグジュアリーブランドをメインにしていて、「i.t」は主にIzzue、STYLENANDAなどの若い日韓ブランドや中国ドメスティックブランドをカバーしている。
ざっくり分けると、高価格帯の「I.T」と低中価格帯の「i.t」となっている。

中国でも認知度の高い海外ブランドをいち早く取り揃え、他に例を見ない豊富な提案力でファッション感度の高い層や若い層へのアプローチに成功し、そのブランド力を築きあげてきたと言える。

特に2000年代は、海外で流行っているものと中国で流行っているものの間にタイムラグがあったため、海外のトレンドをいち早くキャッチし、その情報力とブランド開拓力を中国国内での販売における提案力に変え、着実に成長を重ねてきた。

二つ目の強みであるセレブリティを通じた情報発信力

I.Tグループのファウンダーである沈嘉偉は女優の邱淑貞と結婚しており、彼女の香港での交友関係は成長期のI.Tグループの情報発信に大きく寄与してきた。

他のセレクトショップと比較しても、セレブリティの着用画像を見かける機会が多かったことは間違いない。

三つ目の強みである「オリジナルブランドの開発」

セレブリティたちの情報発信を起点とする強力な口コミの広がりやブランド価値の高まり見せてきた一方で、売上も利益率も高めるためにさらに力を入れてきたことが三つ目の強みである「オリジナルブランドの開発」だ。

完全にゼロから自社開発のオリジナルブランドもあれば、潮牌ブランドのライセンスを使い、セカンドラインのような形で開発してきたブランドもあるが、1つや2つではなく、凄まじい規模で開発し、その築き上げてきたI.Tグループのブランド力を売上や利益に変えてきた。

ただ、強力な強みで着実に成長してきたI.Tグループだが、実店舗に優位性がある分、オンラインを軽視してきたことは否めない。
それが近年の低迷の要因の一つではあるだろう。

オンライン化が希望を生む

とはいえ、彼らも10年以上前からオンラインでの取り組みに手をつけてはいる。
2011年、I.TグループはアリババグループのTmallに出店し、注目を浴びた。ただ、社内ではそこまで重視されず、丁寧な改善を進めないままずるずると運営してきた感は否めない。

しかし一方で、中国大陸のインフレが進んできたことで、テナント家賃や人件費といった固定費は一貫して上昇を続けてきた。特にテナント家賃は繁華街を中心に凄まじい上昇を続け、実店舗の売上に対しその割合が増え続けてきた。
2010年と2022年を比較すると、上海の中心部であれば、同じテナントで2倍以上の家賃になっているところがほとんどだ。
そのため、新規出店するセレクトショップたちは、立ち上げ当初からオンラインでの販売にも力を入れてきた。

その流れに押されるような形でI.Tグループは2017年に自社ドメインのECサイト、2018年にWeChat内ミニプログラム型ショップを開設した。

それに合わせて組織も組み立て直し、デジタルやオンラインに特化したスタッフを増やしてきたと言われている。
実際、様々なアプリ内でもI.TグループのEC関連のバナー広告を見かけるようになり、そういった点からも彼らの流れの変化を感じることができる。

まだまだ完成形には至っていないのかもしれないが、それでもようやく大きな一歩を生み出したとは言えるだろう。

急がれるDXの推進

とはいえ、その歩みはまだ始まったばかりで、ソーシャルメディアも含めたオンライン戦略の推進が急がれている。
精緻なDX化とまでは言わなくとも、ソーシャルメディアなどのデジタルツール、実店舗、EC機能の連動は急ピッチで進めていく必要がある。

例えば、中国でも最も流行っているソーシャルプラットフォームRED上では、「I.T」と「i.t」それぞれのアカウントを持っているが、フォロワー数それぞれ約3万人しかおらず、一つの規模として少ないとは言わないが、I.Tグループの規模感からすると、まだまだ物足りないだろう。


※I.TのREDアカウント

また、多数の店舗を抱えながら、各店舗とソーシャルメディアの強固な連携やシームレスな動線はまだまだ設計できていない。


※i.tのREDアカウント

I.Tがこれから再成長するのか、このまま低迷を続けてしまうのか。
それはこれらの改革にかかっているだろう。

中国のファッションマーケットでの王朝復活、あるいは生き残りをかけ、I.Tグループの改革は続く。

兒玉キミト

 

 

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